DESNOSという概念はvan der Kolk氏を中心にPTSDの現在の定義を広げて、慢性的なトラウマをも含んだ診断概念にしようと取り組んだものです。その意味でJudith Herman氏のcomplex PTSDと同じ目的のものであり、互いに影響を与えあいながら取り組んでいます。将来的にDESNOSがDSM等の国際的な診断基準に組み込まれていくかどうかはまだわかりません。しかし、現在のPTSDという診断概念が単回性のトラウマを対象とした概念であり、慢性的なトラウマを含んだ概念ではないので、何らかの修正は行われていくでしょう。また、解離性障害もトラウマ性疾患と独立した診断概念ではないために、何らかの統合された診断概念が登場してくる可能性もあるかもしれません。
以下にvan der Kolk氏の著書である「トラウマティックストレス」(誠信書房)231ページに書いてあるDESNOSの診断基準を紹介します。
- 感情覚醒の制御における変化
(1)慢性的な感情の制御障害
(2)怒りの調節困難
(3)自己破壊行動及び自殺行動
(4)性的な関係の制御困難
(5)衝動的で危険を求める行動 - 注意や意識における変化
(1)健忘
(2)解離 - 身体化
- 慢性的な人格変化
(1)自己認識における変化:慢性的な罪悪感と恥辱感、自責感、自分は役に立たない人間だという感覚、とりかえしのつかないダメージを受けているという感覚
(2)加害者に対する認識の変化:加害者から取り込んだ歪んだ信念、加害者の理想化
(3)他者との関係の変化
(a)他者を信頼して人間関係を維持することが出来ないこと
(b)再び被害者となる傾向
(c)他者に被害を及ぼす傾向 - 意味体系における変化
(1)絶望感と希望の喪失
(2)以前の自分を支えていた信念の喪失
complex PTSDでも同じことが言えますが、DESNOSの概念は慢性的にトラウマを受けてきた人に起こる心的外傷の後遺症であり、従来言われていたアダルトチルドレンという概念を精神医学的に洗練させた形の概念であると言えます。
また、現在社会で問題になっている、様々な心の問題、自傷行為(リストカット、大量服薬、自殺未遂)、境界型人格障害、キレやすいという衝動性の問題など様々な問題も隠された慢性的な外傷体験の結果起きているものも結構あるかも知れません。
ただ、これらの問題の回復には、患者さん自らの「良くなりたい」「幸せになりたい」という前向きな気持ちが最も重要であり、治療技術もさることながら患者さんの力が欠かせません。