数例の経験があります。ある日家族(親や配偶者など)が首をつって自殺しているのを発見するという痛ましいPTSDです。症状もかなり強く出ます。不眠、食欲低下、不安、焦燥、仕事も家事も手につかない、強い自責などでかなり苦しまれています。しかし、わたしの経験した数例の場合、いずれも1回のEMDRセッションで著明に改善しています。場面を思い出しても「もう大丈夫です」と患者さんが落ち着いていえるくらいに改善しています。痛ましい出来事ではあるのですが、出来事以前に健康的であった方の場合、回復力も大変強いものがあるようで、よい結果が出ています。 いくつかのケースは20〜30年ほど前の近親者の自殺というケースもあります。それは自分の親であったり、祖父母であったり同居していた家族の場合にはかなりの外傷体験になっているようです。特に、自分自身が発見者であった場合にはなおのこと傷跡が深いように思います。ただ、あまりにも長い年月が経っていると、患者さん自身がその出来事でPTSDに発症していることに気が付いていないことが多いように思います。つまり、現在の症状としてはPTSDの診断基準を満たすほどの症状ではなく、本人も周りもこの問題に関しては克服して心の整理がついていると判断していることが多いように思います。しかし、治療の中でこの問題が現在の自分の人生に極めて大きなマイナスの影響を与えていることがわかってきたりします。症状の出方としてはPTSDというよりもむしろDESNOSで定義されている症状に近いものがあるかもしれません。自責傾向が強い、漠然とした不安が強い、時にパニックや過呼吸などの症状が出たりする、対人不安・恐怖が強く人に対する信頼関係が構築しにくい、夢や希望が持ちにくい、睡眠が浅い、抑うつ的になりやすい等々です。
こういった隠されたトラウマに関しても、本人の治療意欲と安定性が保たれていればEMDRにより著明な効果が見られます。
これらから分かることは、自殺の発見、近親者の自殺はかなり激しい心の傷を残しPTSDになることが多い。症状もかなり激しいものがある。しかも、長年にわたり症状は持続し続けることもあるということです。しかし、元々が健康的な人であった場合、また、回復への意欲がしっかりと持てる場合にはEMDRによってかなり高い確率で回復できるであろうということです。