EMDRは、PTSD, complex PTSD、トラウマの治療にはとても有効性の高い治療法であるということを、この5年間ほどの経験の中から感じています。特に厳密な意味でのPTSD、言い換えると、外傷的体験に遭遇するまでは健康的に生活をしていたが、ある日突然起こった単一の外傷的体験によりPTSDが発症したようなケースにはとても高い有効性が認められています。例えば、阪神大震災、交通事故、自殺の目撃、性被害、犯罪被害などのPTSDではEMDRの有効性がかなり高いと言えます。実際、私も数多くのこういった事例をEMDRで治療してきましたが、かなりよい結果が得られています。

 また、幼少期からの虐待など、慢性的に外傷的体験が繰り返された場合などは、感情鈍麻、健忘、否認などのために治療が難しかったり、恨みや怒りの感情が強すぎて治療が難しかったりするケースが多く、いわゆるcomplex PTSDないしはDESNOSと呼ばれるケースは治療に時間がかかったり、よい結果が得にくかったりする場合もしばしばあります。しかし、患者さん自身が「治りたい」という意欲がしっかり持てる場合、外傷体験に向き合う力が強い場合には良い治療結果が得られています。治療技術としてのEMDRだけではなく、患者さん自らの力とが相まった時によい結果が得られているような印象です。

 解離症状を伴うケースでも治療の難しさが強いように思います。解離のために過去や現在の記憶の連続性が保てていないため、自分自身に実際に起きていることを理解・把握することが難しくなっていたりするからです。こういった解離症状の背景には深刻な外傷体験があったりしますので、難しさと同時に慎重さも必要です。安定化を図り、信頼関係を構築していくことが治療の第一歩です。そして、余裕のある範囲で催眠の技術も活用しながら色々と情報を集めたり、理解や洞察を深めていく必要があります。ちなみに、私自身は解離性障害を取り扱うことに経験豊かとは言えないので、おそるおそる仕事をしています。

 EMDRはどんな風にトラウマを治すのだろうか? いつも治療しながら自分でも不思議な気持ちがします。患者さんだって「目を左右に動かしながら、耐え難い苦痛が楽になるんです」などと説明を受けても、半信半疑というのが正直なところでしょう。人は心の動きは自分の意志の力でなんとかなると思いがちです。しかし、EMDRの治療は「人間の理性の力で治っているのではないな」といつも思います。わたしが患者さんに説明する際には「例えば体の傷が治る時は、自分で治し方を考えて治るのでしょうか? 自分で治せるかどうか自信があろうが、なかろうが、意志の力とは関係なく傷は治っていきますね。それと同じように心の傷も自己治癒力があるのだと思います。ただ、それを助ける働きをEMDRがしているのかもしれません。骨折で整形外科に来た患者さんが治るのも、治るための段取り(手術など)を医者がするのでしょうが、骨がくっついていく変化は患者の持つ自己治癒力です。それとおなじことかもしれません」と説明します。